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退 屈 な 人 へ 第18回定期演奏会より 1998.6.13
桐 田 正 章
このコーナーを書くのが随分久しぶりだと今回も感じる、私が春日井から離れて1年以上の時間の経過と、活動範囲が広がったのが大きな要因だろう。いずれにしてもしばらくウインドから離れていたので、懐かしささえ感じる。
そんなわけで本番の直前まで私自身、あまり顔を出せなかった。これまで、ほとんどメンバーだけで長い冬をしのいできたって感じで、ある意味ではこのバンドも成長したのではないか、と思う。
回を重ねても練習会場や楽器の不足、メンバーの交代など悩みの絶えることはない。少子化、週休二日制、教師の勤務に関わることなど、バンドにとってプラスになるようなことはどこにもない。10年前の繁栄が遠い昔のことのような感じすらする。こんな時だからこそ、我々が踏ん張らなくてはならないことなど誰よりも解っているつもりだが、多勢に無勢で、無力さだけが残る。
このような活動がほとんど学校教育におんぶにだっこだった。それが社会教育の一環として一人立ちを始めたのだから、理想に近づいているともいえるわけで、喜ばしいことかもしれない・・・。愚痴はこれくらいにして今回の曲について触れておこう。
最初にオリジナルの名曲グスターヴ・ホルストの”バンドのための第1組曲”を取りあげた。学校バンドが盛んになり始めた頃、競って取りあげていた曲であるが、アレンジ曲やアメリカの新しい作曲家に主流が移り始め、あまり演奏されなくなった。それが、近年耳にすることが多くなってきた、やはり良いものは残るのだ。このような曲が復活の兆しを見せているのは喜ばしい限りである。
この曲はイギリス生まれのホルストがミリタリーバンド(軍楽隊)のために書いた貴重な名曲である。この第1組曲は1909年、彼が35歳の時アメリカで書いた作品である。イギリスの古い民謡を用いて書かれておりシャコンヌ、インテルメッツォ、マーチの3曲からなっている。低音セクションのユニゾンで静かに始まるこの曲は、そのテーマが様々に形を変え、最後には全楽器の強奏で力強く終わる。
2曲目の間奏曲はいわゆる交響曲の緩徐楽章とは趣を変え、2/4拍子・ビバーチェで小気味よく始まる。タンバリンが彩りを添え、シャコンヌのテーマが少し形を変えて現れ、最後はそのテンポを守って消えていくように終わる。
終曲のマーチはいきなりffで華やかに幕を開ける。シャコンヌのテーマがここでも2拍子として使われ、シンプルな構成に無駄はない。最後はトランペットとトロンボーンが華やかな掛け合いを見せ、力強く終わる。
2曲目に本年度の吹奏楽コンクール課題曲”稲穂の波”を取りあげた。作曲したのは東京音楽大学をオーボエで卒業した福島弘和である。題名の通り稲穂の揺れる様や様々な田園風景を綴った音楽である。6/8拍子を主体とした緩・急・緩のオーソドックスなスタイルで書かれている。ただ演奏に際して6/8拍子の中の3拍子は、非常にとりにくく演奏が難しい。完成度の高い作品とは思わないが親しみやすく、何か心を落ち着けてくれる優しい曲である。
3曲目も本年度の課題曲から選んだ。保科洋の最新作”アルビレオ”である。
作曲者によると曲名の「アルビレオ」とは白鳥座のくちばし部分にある星の名前で、この星は最も美しい二重星の一つであるといわれている。望遠鏡で見ると宝石のように美しいオレンジとグリーンの二つの星が重なっており、その幻想的な 状況は何とも形容しがたい美しさである、という。
いずれにしてもこの二つの星になぞらえた対照的なモティーフを、巧みな技法で展開させているところは流石である。この曲も急・緩・急・コーダのオーソドックスなスタイルで書かれている。演奏スタイルが特定しやすい曲で、作曲者の実力がうかがえる。
4曲目にはこれまでにも取りあげたことのある、フランツ・フォン・スッペ作曲の”喜歌劇「軽騎兵」序曲”を選んだ。トランペットのファンファーレで始まる。軽騎兵のギャロップ風の軽快な行進曲に移り、ひずめの音の模写が加わる。次第に速くなって騎馬の進軍の様が描き出される。短調に転調しメランコリックなメロディーをテナーサックスとクラリネットが歌う。やがて最初の行進曲が力強く再現され、華やかに終わる。
今回の中心的な曲として取り組んだのが、クラシックの部最後の曲”ティル・オイレンシュピーゲルの愉快ないたずら”というへんてこなタイトルの曲だ。いうまでもなく管弦楽のためにリヒャルトシュトラウスが書いたもので、吹奏楽での演奏は今年の2月から解禁になったばかりである。以前はマークハインズレーの編曲版がアメリカから出版され、吹奏楽でも時々演奏されていたが、著作権者から演奏の差し止めがされ、楽譜の出版はされていても演奏ができないという、何ともおかしな状態が続いていた。それが与野高校の斉藤先生のアレンジが著作権者に認められ、彼のアレンジでの演奏が可能になった。
ホルン奏者にとって非常に難しくもあり、おいしい曲で、以前から一度はやってみたいと思っていた曲である。
この曲はリヒャルト・シュトラウスがティル・オイレンシュピーゲルの伝説を交響詩で音楽化したものである。
「むかしむかしあるところにいたずら者がいたとさ」が曲頭の部分である。「そのいたずら者はティル・オイレンシュピーゲル」がこの旋律で、ホルン演奏者にとって非常に難しく、また腕の見せ場でもある。この旋律が色々と変化し曲の大部分を構成している。
以下その物語の概略を示しておく。
昔々いたずら者がいたとさ。その名前はティルオイレンシュピーゲルという。ティルは冒険を求めて足取りも軽やかに出発する。早速いたずらを探し始める。変装して、元気いっぱいのティルは忍び足で市場へ近づく。そして突然馬を駆り市場へ乗り込む。器物は壊れ、女や子供たちは逃げまどう。一暴れしたティルはどこかへ隠れてしまう。しばらくすると、なぜか僧衣をつけ、大衆を集めてまじめな顔で道徳について説教を始める。ところが、堅苦しいことには絶え切れず、再び馬にまたがりおもしろいことはないか、とうろついていると偶然にも美しい娘たちと出会う。そこで一人の美しい女性を本気で好きになってしまう。彼はあふれんばかりの愛情を注ぐのであるが、失恋の洗礼を浴び、世の中に興味を失った。そして、ティルは全人類への復習を誓うのである。開き直ったティルのいたずらは更にエスカレートしていった。ところがこれまでの悪行のためにとうとう捕らえられ、裁判に掛けられる。被告となったティルはあざ笑うように口笛を吹くが、いつしか恐怖に襲われ、おずおずと絞首台に登り、命を絶たれる。
こうしていたずら者の生涯は終わったが、彼のユーモアといたずらは、昔々という物語で生きている。憎い奴だったが本当に楽しい奴だった。
というものだ。
私は最初と最後の昔々、のところがたまらなく好きだ。
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